コラム伯楽業パート3阿部弘幸


 ボクサーからトレーナーへ転身する例は多い。選手を指導する上で現役時代の経験が決して無駄にはならないというのもその一つの理由だろう。例えば、大きな試合を控えた選手の心境などは、そのまま自らの過去と照らし合わせることができ、選手としての経験は直接トレーナーの大きな糧となるのだ。
 阿部弘幸氏は現在35歳、角海老宝石ボクシングジムの中では新人トレーナーだが、ミニマム級の元日本王者という輝かしいボクシングキャリアを持つ希有な人材だ。小川利樹選手(ミニマム級6位)、斉藤直人選手(ライトフライ級)、竹下隆之選手(スーパーバンタム級)ら若手を中心に担当している。

「現役時代の経験は当然今でも活きてます。選手の気持ちはよく分かるし、また選手だったからこそトレーナーの存在がどれだけ重要か理解できる。僕が出会ったトレーナーたちの指導法を取り入れたりして、今は試行錯誤しながらやってますよ」

 その穏やかな人柄から選手の間でも親しまれている阿部氏。ジムで選手を指導する傍ら、WBC世界ミニマム級王者・イーグル京和選手のフィジカルマネージャーも務め、多忙な日々を送っている。

「デン(イーグルの本名)はちょっと格が違いますね。パンチの打ち方、間合いなどすべてが独特で。僕は現役の頃から階級が同じだったんで、よく一緒にスパーリングをしてたんですよ。だからその流れでマネージャーをしてるんですが、一流ボクサーである彼のそばにいられることは、トレーナーとしても本当に良い勉強になってます」  

 今でこそ、裏方に徹している阿部氏だが、現役の頃はスピードを武器にしたボクサースタイルで、粘り強くガッツのあるファイトで鳴らした軽量級の名選手。阿部氏は「僕はプロデビューが24歳だからこの世界では遅いスタートなんですよ」と笑いながら自らのボクシング人生を振り返ってくれた。
 岩手県山田町で生まれ育ち、兄が自衛官だったことから高校卒業後は航空自衛隊に入隊。しかし、元来団体行動が苦手な阿部氏は「上下関係や組織の規律を重んじる自衛隊の生活にはなじめなかった」と家族の反対を押し切って2年後に除隊する。そして20歳の時に上京。都内のガソリンスタンドで正社員として働く生活を送る中で、ボクシングに出会った。

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