「泣きましたよ、それは。大学まで蹴って高校の頃から積み上げてきたものがこれで、これで終わっちゃうのかって。今までなんだったんだろうって。悔しかったですよ」
手術をして入院中、ボクシングを辞めざるを得ないという辛い現実に打ちひしがれていた佐藤氏の元に、かつて自身も網膜剥離が原因でボクサーを引退、トレーナーへ転身した田中栄民チーフトレーナーが見舞いに来てくれた。
「田中さんに『どうすんだよ?』って聞かれて、『実家に戻って世話になったジムでのんびりトレーナーでもやりますよ』ってなんとなく答えたんですよ。そしたら田中さんが『だったらうちでやれ』って誘ってくれたんです。その時は正直トレーナーという職業の面白さとかよく分からなかったんです。結局やるのはボクサーだし、他人が勝って何が嬉しいのかなあ、とか。まあでも出たとこ勝負でやってみるか、みたいな気持ちもあって、とりあえず退院したら実家にも帰らず、まずジムに顔出してましたね」
青春時代から情熱をかたむけてきたボクシングとの縁をそう簡単に切 ることはできなかった。佐藤氏は退院後、今度はトレーナーとして角海 老ジムに迎え入れられ、多くの先輩たちの指導法を横目で見ながら学ぶ中で、新しい仕事の面白さに気づいていく。
「元々、俺なら良い選手が作れるんじゃないかっていう根拠のない自信がなぜかあって(笑)。やっぱり自分の選手が勝つと嬉しくて、俺が戦ってるわけじゃないのに良いパンチが入ったりするとガッツポーズとか出ちゃったり。そうこうしてるうちに、だんだんトレーナーのやりがいってこういうことなんだって分かってきたんですよ。今はこの仕事が面白いかって聞かれたら、すぐに面白いって答えられますよ」
初めは見習いから始めたトレーナー業も最近では結果も出てきた。プロ入りの頃から見てきたSフェザー級の真栄城寿志選手は昨年、東日本新人王を獲って念願のランカー入りを成し遂げた。
「真栄城はホント馬鹿正直というか。やれって言ったことはずっとやってるんですけど、応用が利かないというか。こないだのイーグル(京和・現WBCミニマム級世界王者)の初防衛戦なんかを見ていると、やっぱり賢いんですよね。頭が良い。トップに立つ選手はそうした面も絶対必要だから、真栄城にもそういう応用の利くボクシングも覚えさせないと」
⇒次へ
⇒戻る
⇒TOPへ