こと自分の選手の話になると熱が入る。その語り口はトレーナーそのものだ。最近、佐藤氏は「プロ意識」ということについて考えることが多いと言う。

「やはりプロというのはお客さんあっての商売だと思うんですよ。自分の仕事も良い選手を作って、その選手が良い試合をすればお客さんも入って、ひいてはボクシング界を盛り上げることにつながるわけじゃないですか。選手にもそうした意識を持ってやって欲しい。もちろん勝つことが一番大切なんですけど、試合を観に来てくれるお客さんがいるということは常に意識していないと」  

 シアトル・マリナーズで活躍する米メジャーリーグのイチロー選手は、昨年のシーズンで低迷するチームの中でひとり気を吐いた。イチロー選手は「優勝は無理だと分かっていてもスタジアムにはお客さんが来てくれる。ならば手を抜くわけにはいかないし、個の力でどれだけのパフォーマンスを見せられるのか、プロならばそれは常に意識しないといけない」と語っていた。佐藤氏もそうした「プロ意識」を選手に持って欲しいと話す。

「例えば入場曲一つ選ぶにしても、自分が好きな曲を選ぶんじゃなくてお客さんが盛り上がるような曲を選ぶとか。入場はどんな選手にも平等に与えられる自分だけの時間、だったらその時間内でお客さんが喜ぶパフォーマンスをすれば名前くらい覚えてくれるかもしれない。お金を取って試合を見せているんだってことを選手はもっと考えてもいいと思うんですよ」

 そのほかの格闘技と違って1度の負けがその後を左右するボクシングにとって勝負論はなにより。だが、それもすべてはお客さんあってのこと。こうした発想が出てくるのも佐藤氏が、若くして広い視野でボクシングを見られるトレーナーという職業に付いているからなのかもしれない。
 
佐藤氏の今後の展望を聞いてみると、こう答えてくれた。
「振り返ってみれば、網膜剥離でボクサーを辞めたのもようやく前向きに考えられるようになりました。やはりこの先の人生も長いし、体を壊しては元も子もないですから。ボクシング界で新しい生き甲斐を見つけられたというのは幸せなこと だし、何事も若いうちから始めることは大切だと思ってます。その点、 自分は20代でトレーナーという仕事を始めてるんで、将来は絶対チャンピオンを作りたい。体が動く限りはトレーナーを続けたいですね」

 そう語る佐藤氏が将来、角海老を背負って立つ名トレーナーになる日もそう遠くないかもしれない。(取材・文:野口弘宜)
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