「スターになれるのはほんの一握り。ボクシングセンス、才能が元々ないとやっぱり難しいね。でも色んなタイプがいるから全く才能がなさそうに見えても、実は奥に秘めているだけという、2段式ロケットや隠れたターボを持ってる素材っていうのがいる。トレーナーとして俺はそういう奴に結構しびれる。人間って最初の一歩だけじゃ分からない、そこがまた面白い」
さらにこうも付け加えた。
「でも、どれだけ才能があってもボクシングをメインにした生活ができて、体調管理、節制生活ができないとモノにはならない。体重制限があるボクシングほど命を削るスポーツはないから、練習をさぼったり地道な努力ができないとね。才能とメンタルのバランスが揃って初めてボクサーとして大成できる」
ボクサーという幹となる素材に、トレーナーは深い洞察力を持って個性を見抜き、適所に水をやり枝を付け花を咲かせていく、まさに二人三脚の作業。田中はボクサーとトレーナーの関係をそう表現した。
年間20〜30人の選手を見ている。人生で一番体力のある年代の若者たちと接していることが楽しい。これからは色の付いていないまっさらな状態の選手をゼロから育てたいとも思っている。
最近の課題は「言葉」だ。確かに田中の経験則から紡ぎ出せれる言葉の数々には説得力がある。
「試合中、自分ができることは言葉をかけることだけ。だから言葉だけでボクサーを操れるトレーナーになりたいんだよね。それが俺が考える理想のトレーナーだと思うから」と言う。
最近、腎臓の調子が良くないらしい。ミットを持って1日に何人もの選手のトレーニングに付き合うトレーナーの仕事は想像以上のハードワークだ。それでも田中はこの仕事を辞めるつもりはないと言い切る。
「天職だからね。自分が生きられる世界を見つけられて本当に幸せですよ。ここまで来たら自分に対する意地だから、透析を受けながらでもやるつもり。世の中には死んで後悔する奴もいるんだろうから、俺の場合、ボクシングで死ねれば本望ですよ」
そんな熱い思いを胸に、先生とボクサーたちの二人三脚は当分終わりそうにない。
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