2023-09-26
10月7日、マニラのエロルデ・スポーツセンターで、空位の東洋太平洋ライト級王座を同級11位のロルダン・アルデア(比/18勝10KO9敗1分)と争う同3位で元日本S・ライト級王者の鈴木雅弘(角海老宝石/9勝6KO1敗)が、精力的に調整を進めている。近年、日本人ボクサー絡みの東洋太平洋タイトルマッチは国内に相手を呼ぶか、日本人対決がほとんどだが、下位ランカーの地元に乗り込んで果敢にベルトをつかみ取りに行く。《取材・文 船橋真二郎》
鈴木は向山太尊(左)、石井龍誠(右)をパートナーに12ラウンドスパーを敢行
鈴木の日本ランキングは現在1位。チャンピオン・カーニバル出場権をかけた最強挑戦者決定戦出場をにらみながら、オファーが届いた時には「日本を獲るには、あと2回勝たないといけない。だったら一発勝負のほうが(タイトルには)早い」と即決した。
海外戦はアマチュア時代のフィンランド遠征以来、ボクシングキャリア2度目という。が、「神経質な人間じゃないので、場所は特に気にならない」とあっけらかんと笑う。初の12ラウンドの戦いも「僕は10試合して判定が3試合。勝っても負けても10分の7は判定じゃないので(最後までいかない)。それに良くも悪くも2ラウンド増える分、疲れる確率も高いけど、倒せる確率も高くなる。そこが僕の中では嬉しいところ」と独特の感性でポジティブに捉えている。
アルデアはキャリア3度のKO負けも、過去2度の来日で強打の尾川堅一(帝拳)が倒せず、対戦当時7戦全勝7KOだった小田翔夢(白井・具志堅スポーツ)が初めて試合終了ゴングを聞いたように、KOで攻略するには一筋縄ではない相手。「上半身がやわらかくて、攻撃をいなすのがうまい」と当然、鈴木は織り込み済みで、主導権を握りつつ、じっくりと捕まえるチャンスをうかがうことをテーマに掲げる。
アマチュア時代は天敵・李健太(帝拳)に7戦全敗と「得意とは言えない」と苦笑するサウスポー対策も順調な様子。堤駿斗(志成)や海外の選手を研究し、セオリーの左回りではなく、体が開かないように前の左足を内に締めながら、「角度をズラしていく意識を持ったら、左ストレートの直線上にいなくなれて。結果的に外を取れるイメージを持てるようになった」という。そのイメージを田部井要トレーナーと共有し、2人でブラッシュアップしてきた。
7月には、現在はオーストラリアを拠点にしており、ちょうど帰国中だった内藤律樹(E&Jカシアス)とスパーリングを重ねられたそうで、「思った以上にリードが嫌だったと言われた」と手応えを得た。アルデアは典型的なフィリピン・ファイターとは一味違い、振り回すというより伸びてくる左ストレートが主武器。これ以上ない相手との実戦練習で対サウスポーのイメージを突き詰められた。
取材の日は12ラウンドのスパーリング。前半は日本S・フェザー級9位で12月に日本タイトル挑戦が決まった向山太尊(ハッピーボックス)、後半は金子ジムに移籍後、3連続KO中と絶好調の日本S・フェザー級6位、石井龍誠と手合わせ。「角度をズラす」というポジショニングの意味がよく分かる内容で、要所に鋭い左ジャブを決めるなど、イキのいい両サウスポーを相手に終始優勢のうちにフルラウンドを終えた。「決まった時から気合いの入り方が違ったし、なおかつ尻上がりに仕上がりがすごくいい」と田部井トレーナーも太鼓判を押す。
東京・下町出身同士で息もピッタリの田部井トレーナー(左)と鈴木
「始めた時よりは、ボクシング生活も長くはないので。燃えるような試合、命を削るような試合をして、チャンピオンというものの、価値をつくりたいんです」
以前から、世界チャンピオンではなくとも「チャンピオンの価値を高めたい」「国内を盛り上げる試合をしたい」と鈴木は熱っぽく語ってきた。そのためにも次の一戦は「すっごい大事」と力を込める。混とんとする国内ライト級戦線の主要キャストのひとりに名乗りを上げるとともに、日本人だけでなく、「え? こんなの呼ぶの? みたいなアジアの強豪」とも試合ができる立場をつかみたいと望む。
「『はじめの一歩』で(主人公のライバルの)宮田一郎が海外遠征中に現地の子どもに『カウンターのコツはタイミングと勇気(ハート)だぜ!』と教えるシーンがすごい好きで。僕も今回、ベルトを獲って、フィリピンの子にやってきます!」
分かる人には分かる言葉で意気込みを表した鈴木。10月2日、先発隊の田部井トレーナー、東京農業大の先輩でもある山内涼太とともに決戦の地・マニラに飛び立つ。