2024-03-29
日本王者と最強挑戦者が激突するチャンピオンカーニバルの中でも最注目のカードがそろった。4月9日、東京・後楽園ホールで行われる「ダイヤモンドグローブ」はダブルタイトルマッチ。国内中量級屈指の戦いになる。
強打を武器に躍進する王者・藤田炎村(三迫/29歳、12勝10KO1敗)の攻撃力か、リーチのあるサウスポーの挑戦者・李健太(帝拳/28歳、6勝2KO1分)の高いスキルか。対照的な2人による日本S・ライト級タイトルマッチ。一発のある王者・仲里周磨(オキナワ/27歳、14勝8KO2敗3分)の雪辱か、戦略に長けた挑戦者・三代大訓(横浜光/29歳、14勝4KO1敗1分)の覇権奪回か。6年半ぶりの再戦で両者が雌雄を決する日本ライト級タイトルマッチ。ともに緊迫感あふれる攻防に期待が高鳴る。
李は大阪朝鮮高級学校、日本大学時代に通算112戦(102勝10敗)という豊富なアマチュア戦歴を残し、高校6冠、日本記録62連勝の実績を築いた。鳴り物入りでプロ転向してから5年。「いよいよ」と腕をぶす李は「楽しみな部分が大きい。より一層、挑戦者の気持ち、新鮮な心構えで臨める」と笑顔を見せる。「ここで獲って、やっとスタート。ほんまに強いチャンピオンなので、しっかり勝って、次につなげたい」と意気込む。
180cmの長身でスマートなアウトボクシングに定評がある挑戦者は「(長所を)生かすのが賢いでしょ」と言いつつ、含みのある笑みを浮かべる。「プロに慣れてきた」と胸を張った昨年3月のジノ・ロドリゴ(比)戦では随所に攻撃的な姿勢を示した。大和心トレーナーの「想像を超える李健太を見せたい」にうなずき、「楽しみにしてほしい」と自信を漂わせる。
「総合的に上回る」が大和トレーナーの真意。「空間支配力」と表現する李の才能はイメージされるロングレンジのみならず、クロスレンジでも発揮されるという。「(藤田が)ゴンテのスピードについてこれるか」を序盤のポイントに挙げ、持ち前のスキルに磨きをかける一方で、ボディプロテクターを装着した体格のいいカルロス・リナレス・トレーナーとのミット打ちでインファイトの強化に取り組む。「もともとケンカはできる。けど、プロに慣れるまで抑えてきた」と大和トレーナー。王者の土俵も「望むところ」と準備を進める。
さばく李、追う藤田が大方の描く展開予想になるが、果たして――。李は「みなさんの予想通りです」と微笑み、「自分のやりたいようにやれば、いい結果につながる」と語る。《取材/構成 船橋真二郎》
■新鮮な心構えで挑める
――プロで初のタイトルマッチが決まって、今までとは違う気持ちもありますか。
李 今までとはまったく違いますね。楽しみな部分が大きいです。
――まったく違う。
李 今までも挑戦する気持ちではいたんですけど、今回はより一層、挑戦者という気持ちになれるので新鮮です。新鮮な心構えで臨めると思いますね。
――プロに転向してから5年。いよいよという気持ちもありますか。
李 それはありますね。ここまで時間がかかったんで。いよいよというのは強いです。
――2019年2月のデビュー戦から1年でコロナ禍になって、特に2020年の1年は1試合もできませんでした。あの時期はどんなことを考えながら?
李 そうですね……。まあ、ジムが閉鎖になったり、この先、ボクシングを続けられるのかっていう状況ではあったじゃないですか。
――先が見えないところも。
李 はい。けど、めげずにトレーニングを続けてましたね。自分に足りないところは何かを考えて。
コンビを組む大和トレーナー(右)と
――特にどういうところを意識して?
李 土台づくりですね。体の強さという部分で。走り込みとか、フィジカルを結構やってました。
――そういうトレーニングは中村正彦トレーナー(帝拳ジムと契約するストレングス&コンディショニングコーチ)のもとで?
李 デビューした時から見てもらってるんで。あれで自信がついたところもありますね。あの1年があっての今です。
■プロに慣れ、準備万端
――チャンピオンの印象は?
李 やっぱり、攻撃力はめっちゃ高いなと思いますね。あとは今までダウンしても挽回してるんで、メンタルの強さはあると思います。
――昨年12月の関根翔馬(ワタナベ)選手との防衛戦は、会場に来ていたと思いますが、実際に見て、何か感じたことは?
李 まあ、思ってた通りですね。ただ、参考にはなりませんでした。相手がサウスポーじゃないんで。こんな感じなんやっていうぐらいで。
――特に気をつけるべきところは?
李 フック系とか、振ってくるパンチには気をつけたいですね。けど、これに関しては、今まで戦ってきた相手がそういうタイプばっかりなんで。
――特にフィリピンの選手は。
李 そう、そう。だから、いつも通り、気負わずやったらええんちゃうかなと思ってます。
――昨年3月のジノ・ロドリゴ(比)との試合後、パンチに体重が乗るようになったし、プロに慣れてきた、と。実際、あの試合は力強さが増してきたと感じましたし、攻撃も1回で終わるんじゃなく、2段、3段と攻めるところは攻めて。あのへんから慣れてきた。
李 慣れてきたし、その時ぐらいからタイトルも視野に入れて、上に行くには、どういうボクシングをしやなアカンとか、考えてやるようになりましたね。今までのままだと引き出しが少ないんで。
――特にどういうところを意識して?
李 やっぱり、攻撃ですよね。足を使いっぱなしじゃなくて、攻撃も一発で終わらないとか、2個目、3個目の踏み込みとか、単純なことなんですけど。攻撃的なスタイルを加えて。
――最初は慣れるまで苦労したところも?
李 ありました。一番は、アマチュアとは(パンチの)タイミングが違うんですよ。結構、飛んでくる角度も違うし、タイミング……というより時間ですね。時間が違うから大変でした。
――時間が違うというのは?
李 アマチュアは真っ直ぐ系が多いんですけど、プロでは、どっちか言うと振ってくる系が多いじゃないですか。パンチが来るまでの時間が1秒ぐらい遅く……1秒は言い過ぎかな。
――コンマ何秒のズレが。
李 はい。ちょっと遅くなるから、反応するのに苦労しました。
――ストレート系、フック系の違いで体感的な遅さが。
李 ありましたね。今までのカウンターやったら、パパンって、やってたのが、パッ、パンとか。けど、体に染みついちゃってるから、難しかったっすね。実戦が少なかったのもあって、時間がかかっちゃいました。
――ああ、そうか。
李 そうです、そうです。コンスタントに試合ができてたら、早かったかもしれないですけど。
――フック、アッパーとか、角度も多彩で。
李 そうですね。けど、そういうのを含めて、今は慣れましたね。そっちのほうが戦いやすくはなってきました。
――藤田選手の攻撃に対しても準備はできていると。
李 気にはしてないです。だから、いつも通り。
――カウンターを合わせるイメージも。
李 ありますね。
■藤田健児に続き、帝拳ジムにベルトを
――ロドリゴ戦の次の10月のアオキクリスチャーノ(角海老宝石)選手との最強挑戦者決定戦では、一転してクールに戦い切った。
李 はい。そんな感じで。あの日は慎重にいっちゃいました。
――いっちゃいました、という感じ?(笑い)
李 いっちゃいました(笑い)。確実に勝たないといけない一戦やったんで。
昨年10月、アオキとの挑戦者決定戦を制した李(右)
――アウトボクシングが李健太選手のベースになると思いますが、ロドリゴ戦のように攻めるところは攻めることもできるし。次は。
李 ミックスした形で戦えるんちゃうかな、というのはありますね。
――どういう展開をイメージしていますか。
李 どうなるんですかね? 相手が出てきて、自分が足を使ってという流れになるんですかね? みなさんの予想通りです(笑い)。
――身長、リーチ、スピード、長所を生かして。
李 (ニヤリとして)ま、生かすのが賢いでしょ?
――何か考えていることがありそうな笑顔ですけど(笑い)。
李 まあ、まあ、まあ(笑い)。楽しみにしといてください。
――アオキ戦では、特に終盤、効いたパンチではなかったにせよ、もらう場面がありましたよね。
李 ありましたね。
――アオキ戦は8ラウンドで、次はプラス2ラウンドになります。
李 体のスタミナはできてるんで、あとは頭のスタミナとか、集中力が重要になりますね。練習から常に抜くことなく。そういう意識で取り組んでます。
――次の藤田選手は一発があるし。
李 集中力がめっちゃ重要です。
――スタミナ、体づくりという面では、昨年は2回ですか。成田の走り込みキャンプにも参加して。
李 2回行かせてもらいました。(11月の)2回目は初めて、あんなに大勢(計10名)で。チームの力を感じました。みんなで励まし合って。
――那須川天心選手、藤田健児選手、中野幹士選手、村田昴選手、増田陸選手とか、トレーナーの大和心さん、粟生隆寛さん、小山和博さん、帝拳ジムには、とにかくサウスポーが多くて、それぞれ個性があって。そういう環境で練習ができることも大きいのでは?
李 いや、めっちゃ勉強になりますね。どういう動きをしてるんかなとか、どんなパンチを打ってるんかなとか、みんなの練習を見たり、訊いたりもするし、吸収できるものは吸収したいと思ってるんで。めちゃくちゃいい環境です。
昨夏の帝拳合宿から、右が李=帝拳ジム提供
――1月に藤田健児選手がタイトル(WBOアジアパシフィック・フェザー級王座)を獲った控え室で「自分が獲って、次はゴンテと豊嶋(亮太=5月4日に日本ウェルター級王座に挑戦)が続いてくれるはず」と。「今、帝拳ジムに(藤田の)ベルトが1本しかないから、もっと」と言っていました。
李 もちろんです。その気持ちはめっちゃ強いですね。
■次の日本タイトルがスタート
――ボクシングを始めたのは中学生の頃ですか。
李 中1から。その頃は週1回、軽くやってました(笑い)。
――梁学哲(リャン・ハクチョル)先生の拳青会というところで(元大阪朝鮮高級学校監督で、現在は東大阪のRボクシングジム・特別トレーナー)。
李 はい。梁先生のところで。中1、中3だけ通ってたんですかね。
――中2の時は?
李 部活が忙しかったんで。
――サッカーでしたか。
李 バレーボールです。サッカーは小学校の頃です。でも、ケガしちゃって。
――ボクシングを始めたのは?
李 お兄ちゃんがやってたんで、その影響です。僕がもうサッカーが大好き過ぎやったんで。(ケガで辞めて)やることが見つからないって、相談したら、じゃ、一緒にやろうよ、みたいな感じで。
――部活と並行して。
李 はい。バレーで大阪選抜に選ばれてたら、ボクシングはやってなかったかもしれないです。選考会まで行って、落ちちゃったんですけど。
――もし、そこで選ばれていたら、今、ボクサー・李健太はいなかったんですね(笑い)。
李 落ちてよかったです(笑い)。
――本格的に始めたのは高校生から。
李 はい。高校で始めた最初の頃は先輩にボッコボコにされてました。鼻血出されて、腹で落とされて、みたいなのをずっと繰り返して。
――そうなんですか。全国大会初出場が1年生の終わりの選抜で、そこから連勝でしたけど、そういうスタートだったんですね。
李 まあ、中学でやってたと言っても週1やったし、全然。でも、中3からボクシングをやると気持ちを固めてやってきてたんで。1回やると決めたら、のめり込むタイプやから。
――高校時代は負けなしで、連勝記録もつくって。当時はどんな感覚でしたか。
李 いや、(記録は)まったく意識になかったですね。というか、最後の大会(高校3年の国体)の時に「こういう記録があるんよ」と言われて、初めて知って。最後の大会だけ、めっちゃ調子が悪かったです(笑い)。
――勝ち進んで、優勝して、高校6冠を達成したら、ちょうど(古口哲さんの61連勝を破る)62連勝だったんですよね。意識し過ぎますよね(笑い)。
李 意識し過ぎました。それまでは自由に自分のやりたいようにやってたのに(笑い)。
――その一方で、大学時代は3年の時の全日本選手権準優勝が最高成績で、タイトルが獲れなかった。
李 ケガが多かったですね。ヘルニアで2年ぐらい思うようにできなかった時期もあったし。
――苦しい4年間だった。
李 はい。苦しい4年間でした。
――そういう悔しさもプロ転向と関係があったんですか。
李 いや、全然。もともとプロでやろうと決めてたんで。でも、最初は結構あったんですかね……始めはありましたね。
――このままじゃ終われないという気持ちも。
李 はい。最初はありました。(大学でタイトルを獲れなかったことは)挫折ではあったんで。
――アマチュア時代に勝ったことのある三代(大訓=横浜光)選手、宇津木秀(ワタナベ)選手、鈴木雅弘(角海老宝石)選手、アマチュア同世代の選手には、すでにプロでタイトルを獲った選手もいますが、活躍を見たり、聞いたりして、何か思うところはありましたか。
李 まあ、自分の性格で、終わりよければすべてよし、みたいな感じなんで、気にはしてないし。最後に自分が世界チャンピオンになればいいんで。過去のアマチュアの記録とかもどうでもいいし、考えてもないですね。
――我々は李健太選手を紹介する時、62連勝とか、高校6冠とか、どうしても冠をつけてしまいますが。
李 けど、それは嬉しいですよ。そうやって紹介してもらう分には。
――とはいえ、そろそろ、それに代わるようなプロでの実績をつくりたいですよね。
李 つくりたいですね。
――次の日本タイトルには、どのような意味があると考えていますか。
李 ここで獲って、やっとスタートできるかなっていう感じです。(藤田は)ほんまに強いチャンピオンなので、しっかり勝って、次につなげたいですね。
――ここで獲らないと、というプレッシャーは?
李 もちろん、少しはあります。でも、自分のやりたいようにやれば、いい結果につながるんで。気にせずにやります。
――注目の試合で会場も盛り上がると思います。
李 向こうも人気者やし、応援団がすごいと思うんで。楽しみですね。
――アオキ戦の時の李健太選手の応援団も声援がすごかったですけど、今回は何人ぐらいの方々が?
李 400人ぐらいですかね。ありがたいですね。
――しばらく声出し制限があったのが昨年、解禁されて。
李 はい。みんな、出していいの? みたいな感じで。それやったら、次の試合のために応援歌つくるわっていう人もおるし(笑い)。
――では、次も。
李 いや、大盛り上がりになるんちゃうかな?(笑い)。
――そういう雰囲気のほうが力を発揮できる?
李 発揮できますね。
――真価を発揮したいですね。
李 はい。楽しみにしてほしいです。