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4年3ヵ月ぶり復帰から4戦目で王座挑戦の大橋波月  「毎日が悔しい、今が一番ボクシングが楽しい」

  
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2024-12-02
10日、東京・後楽園ホールで開催される「ダイヤモンドグローブ」のメインは日本L・フライ級タイトルマッチ。王者の川満俊輝(三迫/29歳、10勝6KO1敗1分)にキャリア初のタイトル挑戦となる同級6位の大橋波月(おおはし・なつ、湘南龍拳/26歳、8勝6KO3敗1分)が挑む。

 大橋は今年4月、大阪で日本ランカーの松江琉翔(大成)に5回KO勝ち。A級2戦目で初のランク入りを決めた次戦でチャンスをつかんだ。「決まったときは、今の自分で勝てるのか、という不安もあった」と当時の心境を素直に振り返る。それでも「試合が近づくにつれて、やってやる、倒して勝つんだ、という気持ちが固まってきました」ときっぱりと口にする表情に充実した日々がうかがえる。

 昨年8月、実に4年3ヵ月ぶりにカムバック。2022年11月、小学3年生でボクシングを始めた頃からの盟友・五十嵐春輝(湘南龍拳)が東日本新人王になり、技能賞に輝いた姿に「カッコいいな」と触発された。同時に「キツイことから逃げた自分」を突きつけられた思いだったという。復帰後は3連続KOと勢いに乗るが、何より「復帰してからの1年半の練習、時間の濃さでは絶対に負けてない」という自信が力強く後押しする。

 「もちろん、僕が引退していた4年半もボクシングを続けていた川満さんの努力が簡単に覆るとは思ってない」と大橋。「それを覆すのは自分の覚悟」と続ける。ともに攻撃型で熱戦必至、KO決着濃厚の顔合わせ。「フルラウンドはいかない。どっちかが倒されるか、止められるか。(近距離よりやや長い)自分の距離を上手くつくって、いいパンチを当てていきたい。倒して勝つ」と決意を込めた。

 このボクサーがユニークなのはサーフィンというバックグラウンドがあること。物心つく頃から父親と湘南の海に親しみ、十代の頃はプロサーファーを目指した。トップボクサーたちが指導を受ける寺中靖幸フィジカルトレーナーには「独特の体幹の強さがある」と評価されたという。元世界王者の佐藤洋太のスケートボード、現・IBF世界フェザー級13位の阿部麗也(KG大和)のスノーボードを想起させ、興味深いのである。

■自分の勝ち筋がどんどん鮮明に
――初のタイトルマッチが決まって、どんな気持ちで試合に向かってきましたか。
大橋 決まったときは、今の自分で勝てるのか、という不安もあったんですけどね。でも、試合が近づくにつれて、やってやる、倒して勝つんだ、という気持ちが固まってきました。

――練習を重ねて、そういう気持ちをつくれた。
大橋 そうですね。練習量では絶対に負けてないという気持ちは強いんで。今はひたすら自分のボクシングを貫き通せればな、と思ってます。

――復帰から1年4ヵ月、A級2戦目でランキングに入ったばかりで、まだ経験が、という見方もされると思いますが。最初はそういう不安が?
大橋 ランキング戦が終わってから、川満さんの試合は見てて、強い選手と知ってましたし、最初はそういう不安ですよね。でも、気づいたら、川満さんの動画を見て、ここでこれが当たるなとか、自分の中で組み立てられるようになって。そういう自分の意見と(川端龍也)会長の意見をミットで合わせたり、その積み重ねだと思いますけど。

――川端会長と対策を重ねて、イメージが明確になってきた。
大橋 はい。自分の勝ち筋がどんどん鮮明になってきました。

――チャンピオンに対して、どんな印象を持っていますか。
大橋 巧い、技巧派のファイターというか。あとは一発一発の重さと、あの回転力ですよね。流れを一気に奪いに来るような。あそこは警戒してますね。

――そういう回転力とか、攻撃的な部分がクローズアップされがちですけど、巧い、技巧派という印象が。
大橋 いや、巧いなと思います。右ボディーストレートを見せておいて、右のオーバーハンドを上にガツンとか、打ち合いの中でも上下に打ち分けるし、ストレートだけじゃなくて、フックに散らしたりとか。見れば見るほど。

――ただ単純に攻めているわけではなくて。
大橋 はい。みんな、ディフェンスが穴とか言うんですけど、あのスタイルで、攻撃は最大の防御じゃないけど、あれでオフェンスとディフェンスの両方が成り立ってるんだろうな、と思いますね。

――それこそ、巧く組み立てて攻めてくる分、巻き込まれると苦しくなる。
大橋 あれをさせたら、流れを持っていかれるんで。そうはさせないように。

■打ち勝って、倒して勝つ
――タイプは違いますけど、大橋選手も攻撃型の選手で、そういう選手同士のぶつかり合いになると思います。イメージする展開は?
大橋 まずフルラウンドはいかないだろうな、と思ってますね。どっちかが倒されるか、止められるか、だと思うんで。

――となると、どう攻めるか、どう打ち合うか。
大橋 そうですね。僕と川満選手は距離が違って、僕のほうがちょっと長いので。自分の距離を上手くつくって、いいパンチを当てていきたいですね。

――そういう距離とか、ポジションの取り合いになる。
大橋 はい。距離の探り合い、取り合いになるとは。でも、川満さんのことだから、めっちゃ来るんだろうなと思ってます(笑い)。まあ、僕も近い距離は別に嫌いじゃないし、その中で僕は僕のいいパンチを当てて、打ち勝って、倒して勝つ、というだけですね。

――パンチ力、特に右には自信があるのでは?
大橋 どうなんですかね。よく褒められるんですけど、自分では分からないです。結果として、復帰してから、ここまで(3戦)3KOで来ているので。あるにはあるんだろうな、ぐらいの。

――日本ランク入りを決めた4月の松江(琉翔)戦では、相手が右のパンチを警戒しているのを逆手に取ったような左フックでフィニッシュして。自分のパンチ力のイメージを利用しているようにも見えるんですけど。
大橋 あ、そうですね。あのときは松江選手が右ストレートを警戒しているのが分かったんで、右をエサにして、それがハマりました。

――イメージ通り。
大橋 はい。実は右を見せて、左ドーンは会長と結構、試合前にやっていて。それがパッと出たところもありました(笑い)。

――では、今回もいくつか、川端会長とイメージしていることが。
大橋 考えてはいます(笑い)。

――それが出るかは、本番のお楽しみということですね。
大橋 あ、はい(笑い)。ただ、思い通りにさせてくれないのがチャンピオンでしょうし、それに勝ってこそのチャンピオンだと思ってます。

■復帰戦の2日前に結婚
――昨年8月に約4年ぶりに復帰してきた大橋選手にとって、日本タイトルとはどういうものですか。
大橋 ボクシングに復帰する以上、必ず何かを残したいというのがあったので。このチャンスをものにしたとき、復帰してからの1年半のキツイ練習が報われるのかな、と思うんですけど。でも、今の僕は日本タイトルを終わりにはしたくないですね。今の自分の練習量に自信があるし、その過程の4戦目で自分がどの位置まで来てるのか。それが楽しみです。

――この1年半、やってきたことを確認できる試合になると。
大橋 もちろん、この1年半、頑張ったからって、僕が引退していた4年半もボクシングを続けていた川満さんの努力が簡単に覆るとは思ってないです。それを覆すのは自分の覚悟ですよね。復帰してからの1年半、過ごしてきた時間の濃さというか。


――18歳になる直前ですか、デビューしたときと20代半ばで復帰を決めたときでは覚悟が違うと。
大橋 17でプロデビューしたときもあったとは思うんですけどね。今、思うと浅いですよね。3連勝して、ちょっとチヤホヤされて、天狗になって。で、勝てなくなったら、つまらなくなって、練習に行かなくなるし。今は年齢的に時間の猶予もないし、奥さんもいて、ひとりだけの人生じゃないんで。

――結婚は離れている間に?
大橋 そうですね。でも、結婚したのは復帰戦の2日前なんですよ。

――2日前!?
大橋 はい。奥さんとは以前から知り合ってて、またジムに通い始めたことを最初は黙ってたんですけどね。同棲する話になったとき、実はボクシングでプロに復帰するんだよねって話したら、同棲するなら結婚しちゃおうという話になって(笑い)。

――復帰戦は大阪ですよね。計量前日に?
大橋 はい(笑い)。復帰戦が8月6日なんですけど、4日がいろんなことがいい日だったんで。復帰に向けた気合い入れにもなるし、いいかと思って。

――4日に入籍して、5日に計量……あ、大阪に移動して。
大橋 はい。5日は大阪に行って、計量して。で、3日は僕の25歳の誕生日だったんですけど(笑い)。

――3日が25歳の誕生日、4日に結婚、5日に大阪に移動して計量、6日に復帰戦勝利。すごい再スタートですね(笑い)。
大橋 いいの!? その日で? って、奥さんもビックリでしたけど(笑い)。奥さんには、復帰する前からすごく協力してもらって、迷惑もかけてるんで。前とは全然、覚悟が違います。

■再びボクシングに戻ったのは――
――4年のブランクから復帰を決めたのは?
大橋 うちの五十嵐(春輝)が東日本新人王を獲って、技能賞になったのを見て、火をつけられました。2年前ですね。

――その姿がどう映って、どういう気持ちに?
大橋 いや、カッコよかったですね。逃げないで、キツイ練習をしてきたんだろうなと伝わってきて。その一方で、ちゃんと見れない自分もいて。

――その反対の自分の姿を突きつけられた気持ちに。
大橋 そうですね。キツイことから逃げた自分を。嬉しいんだけど、どこか、心から祝えない自分もいて。すげーな、カッケーな、オレ、何やってんだろうな。で、すぐでしたね。今の介護の職場なんですけど、次の出勤のとき、復帰したいので正社員からアルバイトに戻してくださいと話をして。でも、会社が協力してくれて、正社員でいさせてくれたんですけど。

――五十嵐選手の存在が大きかった。
大橋 それこそ、ここの前の最初のジムができたとき、子どもは小学3年生の五十嵐と僕だけで。週2回かな? キッズ教室に。

――その頃からの付き合い。
大橋 はい。会長が僕らの年齢の頃じゃないですか(川端会長が28歳になる2007年)。2人ですっぽんぽんで走り回って、騒いで、会長から怒られたり。当時は先生ですけどね。今も僕と五十嵐の中では会長じゃなくて、キッズ教室の川端先生なので。そういう頃からの(笑い)。

――ボクシングを始めたのは?
大橋 物心ついた頃から、ずっとサーフィンをやってたんですよ。もともと親父がやってたんで、お前もやれよ、みたいな。小っちゃい頃は海ばっかりで。で、サーフィンの先輩にトレーニング代わりに行ってみない? と誘われたのが小学3年生です。

――そこからサーフィン、ボクシングとの距離感はどのような?
大橋 16、17歳まではずっとサーフィンがメインでした。高校も千葉のほうにサーフィンで行って。でも、そこでサーフィン部がなくなっちゃうんですね。他の部員がやんちゃ坊主しかいなくて。で、高校を辞めて、平塚に帰ることになって、またボクシングをやるんですけど。なんだかんだ十代でプロデビューしたときもメインはサーフィンでした。サーフショップで働きながら、プロを目指してたんで。

――しばらく並行して。
大橋 でも、サーフィンからも少しずつ気持ちが離れて。小っちゃい頃から試合に出てきて、疲れちゃったというか。ボクシングもさっき言ったみたいに勝てなくなってからは。

――で、両方とも離れた。
大橋 はい。反動というか。仕事して、休みの日は飲みに行って、女の子と遊んだり……。今、考えたら逃げですけどね。楽しいことだけしたいみたいな。

――かたや五十嵐選手は花咲徳栄高校に行って、プロでボクシングを続けて。
大橋 五十嵐のおかげです。僕が戻ってこれたのは。

――今、五十嵐選手がこういう状況(体重超過で来年2月22日まで出場停止処分中)だから、今度は大橋選手が。
大橋 そうですね。今度は僕が五十嵐に見せる番だと思ってます。

■いい試合をしに行くつもりはない
――川端会長に聞いたんですけど、日本ランカーになってから、寺中(靖幸)トレーナーのトレーニングに参加するようになったと。
大橋 はい。スタート自体は8月から。金銭面的になかなかパーソナルには行けなくて、合同トレーニングに。フィジカルは(今年1月の)復帰2戦目が終わってから、平塚でパーソナルトレーナーを見つけて、通ってはいて。

――それがあってのプラスアルファーで。
大橋 はい。前回の松江戦の前から大橋ジムに出稽古に行かせてもらうようになって、桑原(拓)選手、石井(武志)選手とか、胸を貸してもらうようになったんですけど。大橋ジムの選手はフィジカルが強い人が多くて。

――よりフィジカルの重要性を感じた。
大橋 そうですね。練習も、自分で追い込んでやってたつもりなんですけど、桑原選手の練習を見て、追い込み方が違うなと気づいて。アドバイスをもらうようになって、もっと細かいところまで考えて、練習しないといけないとか。そこから1日1日の濃さが変わってきましたね。

――フィジカルで体の使い方も分かってくるでしょうし、どんどんボクシングが面白くなっているのでは?
大橋 いや、今、すごく面白いです。ただ、毎日、毎日、悔しいですけどね。こうしたいのに動けないとか、ここでこう打ちたいんだけど、手が出ないとか。やりたいことがいっぱいあるのに。レベルの低い自分を痛感させられてます。

――でも、その悔しさがまた次への。
大橋 はい。それがまた燃えるんですよね。次はもう少し、次はもっと、となるんで。

――心から悔しいと思うことが4年半、まったくなかったでしょうからね。
大橋 いや、なかったですよね。というか、十代でデビューしてから1回もなかったですね。こんなに悔しいと思うことは。今は相手が桑原選手だから、できなくても仕方ないとは思わなくて。同じプロボクサーで土俵は一緒なんで。その中で、この動きができた、このパンチが当たった、それが喜びになるし。

――そういう中でやりたいことを求めていくから成長するし、強くなれる。
大橋 そうですね。毎日、悔しいほうが多いですけどね。でも、今が一番、ボクシングが楽しいです。

――戦績を見て、ビックリしたのが後楽園ホールは6年3ヵ月ぶりなんですね。
大橋 そうなんですよ。他の選手の試合で行ってはいるんですけど、自分が立ってないんで。もう外から見た景色しか覚えてないです(笑い)。

――遠征が当たり前で。復帰2戦目はベトナムですよね。どこだろうと一緒なのでは(笑い)
大橋 一緒ですね(笑い)。ベトナムのときはリングに上がる前、会長の声が聞こえなくなるぐらい緊張して、ガチガチだったんですよ。でも、あの経験が気持ちを強くしてくれたのかもしれないです。前回の大阪ではリラックスして試合に臨めたので。

――では、今回のタイトルマッチも。
大橋 はい。そうできるといいですね。今回は後楽園ホールなので、みんなが応援に来てくれるから、燃えますね。僕の1年半を見せられるので。今回のタイトルマッチ、いい試合をしに行こうなんて思ってないし、勝ってこそのプロなんで。勝ちに行きますよ。
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