その後、細川は心機一転、角海老に移籍。しばらくして田部井はトレーナーを退き、家業に専念することを決断する。すでに家庭を持ち、ボクシングの現場からは完全に離れるつもりでいた。だが、ここでも縁をつないだのは細川だった。週1回から2回程度、個人的にマンツーマンで練習を見る関係が続いた。
仕事との兼ね合いもあり、田部井がジムで指導にあたるのは週3日に限られる。専任の担当選手を持てない代わりに担っているのが、奥村トレーナーが担当する選手のサポートである。チーム3人で強くなるという基本的な考え方は変わらない。課題やアイディアを共有し合い、話し合いながら選手を高めていく。
東京の下町、葛飾区の出身。ふたりの兄が地元のボクシングジムに通っていたことに影響を受け、高校1年のときにグローブを握った。「ケンカに強くなりたい」という動機からだったが、最初にジムに行った日、「プロの選手がリングで動いてる姿を見ていたら、ケンカのことは忘れました(笑)。白いリングシューズを履いて、白いグローブでミットを打ってたんですけど、『うわっ、カッコいいな』と思って。グイッと引き込まれました」。